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6月22日

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彗星のごとく現れた韓国のピアニスト、HJリムさんのコンサートに行ってきました。

いつもながら、ベートーヴェンのピアノソナタ32番がプログラムに組まれていたからです。

彼女は昨年、25歳にしてベートーヴェンのピアノソナタ全集を録音し(※2曲不足)、

そのCDBOXが格安だったこともあり、数か月前に入手して聴いてみましたが、私の印象はさほど良くありませんでした。

力任せの速弾きが盛りだくさんで、速弾きと緩暖楽章とのコントラストが心地良い、というメリハリ型の音楽作りをしてくる人、という感想を持ちました。

 

その印象がコンサートを聴いてどう変わるか(あるいは変わらないか)に興味がありあましたが、

率直に言って、CDを聴いた時の第一印象は、当たらずとも遠からず、だと思いました。

彼女が優秀で興味深い人物であることは間違いなく、今後の展開に期待するものの、現時点での彼女のピアニズムは私の好む方向性では

ないことを確認してしまいました。

 

〜以下はコンサート後の感想メモより〜

『おそらく、彼女がベートーヴェンの楽曲から発見したのは、

“堅固な構築性を持つベートーヴェンの楽曲は、ちょっとやそっとで(ベートーヴェンらしさが)崩れるような柔なものではないから、

カルミニョーラがヴィヴァルディの四季に即興の妙を最大限に加えたように、崩せる範囲を最大限に生かすアイディアだったのではないか、と。

「堅固なベートヴェンを四角四面に演奏しては、それこそ退屈だ」といわんばかりに。

その方向性自体はそれでもいい。ただ、私が気になったのは、その“崩し方”が、速いパッセージを団子になろうともより速くし、

フォルテを強烈に叩き込み、対比的に緩暖楽章の美しいメロディをしっとり弾いて引き立てる、という処方箋しかないように思えたこと。

コンサート前にトークを挟んだのも、新しい試みとして面白いとは思うが、内容は。当日販売されていた

リム自身による全曲解説本に書かれていたこととほぼ同じ内容。

この解説というのが、楽曲の仕組みについてはほとんど触れることなく、作曲の背景にある時代やベートーヴェンの境遇についてがほとんどで、

運命や人生の悲劇・難聴の苦悩などのドラマティックな要素を引きだしてきて、彼女の速弾きを肯定するための“理論武装”に使われている、と

感じた。

私の好きなピアニストとは、奏でる音自体で語ることのできる人だと再確認。

 

8番悲壮や23番熱情は、中間色のない、原色だけの絵のような彼女の演奏が合うかと思いましたが、

CD以上に速く、荒い演奏に食傷気味になりました。

むしろ32番アリエッタは、予想ほど悪くなく、CDよりも少し丁寧でゆったりタメたりするところを増やしていたように思え、

ラストでは音色も美しく感じられる部分もあり、リルやシフ、レーゼルの32番に遠く及ばないものの、

自分のソース味に味付けされ過ぎていない32番が聴けてよかったです。